bonotakeの日記

元・ソフトウェア工学系研究者、今・AI系エンジニア

「底辺校出身の東大生」は本当に「底辺校出身」なのか

既にご存じの方も多いと思うが、「文学研究者」を名乗る、東大の博士課程に所属する阿部幸大氏による以下の記事が、色々な意味で反響を呼んでいる。何でも200万PVを越えたとのことで。

gendai.ismedia.jp

「色々な意味で」と書いたのは、この記事が文字通り賛否両論だったからだ。当初は特に釧路出身者から、「話を盛っているのでは」という指摘が多くなされた。
このうち、阿部氏が在籍した高校の元教員を名乗る@winecology氏(以降、ザリガニ氏)の批判をまとめたのが、以下。

togetter.com

まとめたのは、何を隠そう(?)僕だ。当初は、単にザリガニ氏の連続ツイートの仕方が読みにくかったので個人用にまとめただけだったのだが、こちらも思わぬ大反響を呼び、20万PVを軽く越えてしまった。

あまりの反響に阿部氏の記事は連載となり、続編も公開された。上記批判への反論なども綴られている。

gendai.ismedia.jp

で僕は、本当はこの場で、彼と彼の記事について色々語ろうと思っていた。
でも、この2日くらいですっかりその気は失せてしまった。

その理由は、1つには、阿部氏と同じ釧路出身の西智弘氏によるブログ記事が真っ先に公開されたからだ。

tonishi0610.blogspot.jp

僕が書きたかったことが、冷静な筆致で、僕が書くよりも簡潔にまとめられている。
なので、敢えて書くべきことはあまりなくなってしまった。最後の締めくくりはやや異論があるが、それ以外はほぼ、僕の言いたいことを代弁してくれている。

もう1つは、同記事への反応をネット上の様々な媒体で眺めていて、軽く絶望したからだ。
絶望した理由、それは、「どんなに正しい主張でも嘘や誇張を混じえて語ってはいけない」という、誰にも否定し得ない絶対的なルールだと僕が信じていたことを否定する人達が数多くいたことだ。それも、教職、出版社の出版プロデューサー、そして某研究所の教授。本来は「嘘を書いてはいけない」と指導するべき立場の人達も含まれていた。

この話もいずれ別にまとめたいが、結局、「嘘・誇張はダメでしょ」という批判は「ダメじゃない」と思っている人には何も響かない。
なので、すっかり徒労感に襲われて、彼を真面目に評する気も更々なくなった。

「底辺校」は本当に「底辺」なのか

ということで、本当は色々書きたいことはあるのだが、とりあえず1つだけ、西氏のブログへの補足として書く。

先日、Facebookで僕がこの話題を書いたところ、とある知人が、次のようなコメントを残した。

アイスホッケーやっていたものとしては、釧路はアイスホッケーの一流大学を占めるむしろエリート排出の場所だったわけですが。釧路弁が闊歩。 (原文ママ

そう。阿部氏が「田舎」と称し、地域格差の低流に位置すると「思い込んでいる」釧路は、実は立場が変われば地域格差の上流だったのだ。

更に補足すると、阿部氏の記事で「底辺校」と書かれる彼の出身中学・釧路鳥取中学校は、アイスホッケーの「名門校」だ。
特に、阿部氏が中学生だった*1辺りの、2001〜2004年には4年連続で全国大会優勝を果たしている。 詳しくは以下を参照されたい。 www.jihf.or.jp

上記まとめのコメント欄にも、次のような証言があった。

鳥取中学に入りたいから小学校6年で親類の家に住民票移して越境入学狙う子供がいたくらいには名門でしたよ。なにせ部活成績優秀な子供は高校からは釧路以外の名門校に推薦で行くこと多くて、そのステップとして必須なのが中学部活での活躍でして、まあ公立の場合生徒数多いほうが課外活動では有利なのでどうしても人気が一部に集中しがち。そういう理由で、鳥取中学が釧路トップかどうかは微妙だけど人気度でベスト3には確実に入りますね。
https://togetter.com/li/1222112#c4909098

つまり、国内の競技人口から考えて、日本の総人口から較べれば少数ではあろうが、日本のアイスホッケー関係者にとっては鳥取中学校はむしろ、ヒエラルキーの上位に位置しているのだ。
阿部氏がもしアイスホッケーの道を歩んでいれば、彼は筑駒*2に勝る「特権階級」の地位を、彼が「底辺校」と称する釧路鳥取中学校でたやすく手に入れていたことになる*3

結局、彼がアイスホッケーに目を向けることもなく、勉学の道を選択したことで、東大を頂点とするヒエラルキーの中に囚われ、未だそこから抜け出せていないだけなのだ。だから、彼の視点が有効であることを否定はしないが、視野が極めて狭いし、単一的で、画一的だ。
僕も東大に院生として長い間属していたので気持ちはよくわかるが、ぶっ飛んだ天才・秀才に囲まれながら、果てなき青天井へ挑戦し続ける途上でもがき苦しんでいると、それ以外のものが全然見えなくなる。彼はまだその状態から抜け出せていない。「東大」「東京」が頂点のヒエラルキーの外にも世界があることが、彼には未だ「見えていない」。

彼は「田舎」「都会」のまともな定義も線引きもしないまま、「田舎の状況の改善のために、(田舎者は)団結し連帯しなくてはならない」と記しているが、一体どう「改善」すれば彼は満足するのだろう。それは今後、彼が連載の中で明らかにしていくのかもしれないが、僕は、彼が今の画一的な、「東京」を頂点とするヒエラルキーのみを意識し続ける限り、まともな解決法を見つけることはできないと思う。
本当の答えは、彼がより多様な価値観を学び得た先に出てくるのではなかろうか。

[追記] 続き bonotake.hatenablog.com

*1:記事中で、阿部氏は「2000年に中学に入学」と記している。

*2:筑波大学附属駒場中学校・高等学校。阿部氏が記事中で「私が東大に入学し、なかば憤慨したのは、東大と同じ駒場東大前駅を最寄り駅とする中高一貫校が存在し、その東大進学率が抜群に高いということだった。なんという特権階級だろう!」と評した学校である。

*3:こう考えると、今回の騒ぎですっかり「底辺校」のレッテルを貼られた釧路鳥取中学校の関係者の方々が不憫でならない。

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